物語と、森の呼吸と

闇の守り人 (偕成社ワンダーランド)
 一刻も早く寝なきゃなのだが、今夜の帰り道の空気があまりにも豊かだったので。
 相棒が貸してくれた本「闇の守り人」(上橋菜穂子著)を会社近くのマックで読了。シリーズ前作でもそうだったが、今作でも終盤ずっと私の視界はぼやけがちだった。店を出ると、明るすぎる街灯が整然と並ぶものの樹々の厚みの前では存在感の薄い、歩いて20分の家路が待っている。鬱蒼とした樹の群れに左右から見下ろされて歩く道は、まるでまだ物語の中にいる様な錯覚。物語の登場人物達が、まだ私のすぐ側に居て語りかけてくる。生きて、この国で、ひとりで、この道を一歩ずつ踏みしめて歩いているこの瞬間瞬間がなんと幸福だったことか。顔や腕にまとわりつく湿気は樹々が私にくれる抱擁。夜の空と樹々と空気と道、そして私の中に広がった世界。何ひとつ欠けていない、あまりにも豊かな小宇宙があった。これだけでいい、これがあれば、私は何にも負けないよ。
 街灯に照らされた、空に向かって大きく両手を広げている様な美しい樹を眺めながら、この物語達が日本ではなくこの国で今私にもたらされたことに心底感謝した。この風景は多分ずっと忘れない。