またひとつファンタジーを読了し、パスタ屋を出、街灯に照らされてぴらぴら光る樹の葉を眺めながら、私はまたひとつ本に支え直されたな、と思う。よっこいしょと。
 現実から遠い世界の物語を読むのは、より鮮やかに現実を見るため。旅や夢と同じように、自分の生身が存在する世界から離れれば離れるほど元の自分がよく見える。旅から戻り、地面に着地したとき、摩耗しぼやけていた自分の現実が息を吹きかえす。空気をかき分け、コンクリートの反発を感じながら、一歩一歩地面を征服していく。もぐらのようにちょこちょこと顔をのぞかせていた「迷い」達を軽くたしなめ、落ちつかせて寝ぐらへ帰すように。
 本は生きていくための私の飛び道具だ。手や足と引き換えにしたとしても、目は失えない。だから医療の進歩を望む。