白夜行

 23時頃から1時間半、霧雨のなか、表参道から渋谷まで夜の散歩。
 うちの部はかなり上空にあって下界の様子がほぼ全くわからないため、外に出て初めて雨に気づくことが多い。今日は赤入れした原稿を編プロに届けて帰るという回り道を予定していたのだが、傘をとりに戻るのも面倒なので途中で傘を買えばいいやと地下鉄へ。そして表参道に出たのだが、ああいうおしゃれな街ってコンビニないのね。霧雨をうけながら歩くはめになった。でも、これが非常に気持ちよかった。
 雨でしかもこの時間になると、人間はだいたい車中に居るので歩道はほぼ無人。影が暗く、街灯が明るく、遠くのビルが靄いで空に消えて行く。徐々にコートを湿らせながら、この贅沢な空間と時間をくれた全ての要素に感謝した。
 事務所について原稿をポスト投函し、国道246沿いに渋谷へ向かう。車のライト達をすかして、彼方に渋谷と思しきビル群の明かりを望みながらまたひたすら歩く。青山トンネルをくぐる。あれほどあった車の流れがトンネルをくぐり始めたタイミングで掻き消えるようになくなり、別の世界に迷い出ることなく100メートル足らずの向こう側まで辿り着けるだろうかという嬉しいような不思議な感覚も味わった。
 iPodでちょうど流れていたスピッツの「ガーベラ」が、湿った白夜の空気と私の気持ちを完全に同調させてくれていた。多分傘をさしていたら縁が無かっただろう、素敵な体験だった。