夏といえば。

 暑いこの時期、そして仕事にゆとりのあるこの時期、冷たーい氷を欲するように、体内が涼しくなるような話が欲しくなる。てなわけで、自分の怪体験をひとつ述べさせて頂きます。ありがちな話です。無駄に長いので、お暇な人だけどうぞ。お題は、検索風に「山 廃病院 電燈」(無駄に長いにもほどがあるのでアップ後ちょいはしょりました)。
 大学の時、数日をかけて東北をトレッキングするという夏季課外授業があった。最終日に泊ったのは県で最も高い山の山頂付近の建物で、霧に包まれた元看護婦寮。さらに、近くには廃病院があるという。
 夜、酒盛りになり、気が大きくなった私と親友(女子)はやはりと言うべきかその気満々に。その場にいた10人ちかくを巻き込み、廃病院に向かった。電灯もない真っ暗な道を歩き、闇に溶け込んで輪郭のみがおぼろげに見える廃病院に辿り着く。病院は3棟に分かれ団地のようになった大きいもので、今思うとあんな大きな病院がこんな人もいない山奥にあるのには少し違和感があり、一般病院とは違う目的のある所だったのかもしれんという気もする。 
 実際建物に入ったのは、言い出しっぺの女子2人、男子2人の合計4人。先頭の男子が懐中電燈を一つ持ち、中に女子二人を挟むようにして階段を上がっていった。中は相当汚かった。欠けたコンクリートが一面に散らばっていたり、毛布や食べ滓などがあったり、二つに割れた便器が転がっていたり。「お化けっつーよりヤバい人間とかのほうが居そうでそっちのが俺怖いんだけど」「それはそうかも」などと、けっこう余裕で上をめざす。しかし、その余裕も最上階への踊り場にさしかかったあたりで消し飛んだ。バチッという音がして先頭男子の持つ懐中電燈が切れたのだ。切れ方からしておそらくショート。私は2番目に居たのでそれがわかったのだが、後ろの二人は最初、先頭男子がふざけて切ったのだと思ったようだ。だがそうではなかった。電燈はもうつかない。先頭男子は後ろからの「ふざけるなよー」という声を聞きながらしばし茫然としていたが、私と二人がかりで後ろの二人を納得させると、後ろの二人も絶句。もうほぼ最上階まで来ており、灯り無しで下までおりるには危険な障害物が多すぎた。洒落にならない…。だがこういう時はかえって冷静になるもので、何か代わりになるものをとそれぞれ自分を点検し、最後尾の男子が持っていたライターと私の携帯電話の画面光をたよりに、二人ずつになり手を繋いで、慎重に下まで降りたのだった。
 外に出ると、私達は階段をおりてくるそのままの歩調でぎくしゃくと輪の中にもどり、懐中電灯がきれたんだと報告した。皆なんとなく黙ってしまい、微妙に早足で宿舎へ。宿舎に戻って初めて待機組から聞いたことは、私達が建物内を探検している間、手持ち無沙汰だった彼らが記念写真でも撮ろうと何回か試みたのだが、フラッシュもたいているのになかなかシャッターがおりなかったという事。それでも何枚かは撮れてるはずだ、と撮影者が言うので、じゃぁ後でそれを見てみよう、ということでその場は終わった。
 その後、メンバーで撮った写真集などを見せあう機会があった。しかし、一番の関心事、あの現場で撮れていたはずの写真は実際は撮れていなかったらしい。現像に出して、焼かれた写真の中にそれらしい風景はなかったと、自身腑に落ちない顔で撮影者は言った。あ、そうなんだ。だけで済ませた私達の中には、深く追究する事への恐怖のようなものがあったんだろうと思う。
 他にもいくつかあるので、気が向いたら紹介します。さいきん無いなー、体験怪奇スペクタクル。